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ライトノベルの装丁におけるグラフィックデザイナーの比重の変遷

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雲上四季 - デザイナーという縁の下の力持ち[↑B]
 その辺りの話はライトノベル完全読本で自分がグラフィックデザイナーの方たちにインタビューをしているので読んで読んで!と話題に合わせて宣伝。
ARTIFACT ―人工事実― : ライトノベル完全読本[↑B]
ライトノベル完全読本ライトノベル完全読本 Vol.2ライトノベル完全読本 vol.3 1号では鎌部善彦氏(記事にまとめたのは更科修一郎さん)、2号では伸童舎のしいばみつお氏と福田功氏、3号ではデザインクレストの朝倉哲也氏にインタビューをしている。全般的にちょうどアナログからDTP移行期を経験している人たちなので、その辺の話が多かったのが印象的だった。
 特にデザインクレストの朝倉氏にはニュータイプの創刊の頃の話なども聞けて大変面白かった。ニュータイプというと井上伸一郎氏の印象が強かったが、井上氏は当時副編集長で、編集長だった元テレビジョンで現在トイズプレス代表取締役の佐藤良悦氏が、ビジュアルの力が強い誌面を作りたいと考えていて、あのような誌面になったという。あの当時のアニメ雑誌の話はいろいろな人に聞くと面白そうだ。

 ライトノベルを昔から読んでいる人ならわかるが、昔のライトノベルは表紙はみな同じパターンでイラストが違うだけのものだった。雑誌ならばデザインにコストをかけることができるが、文庫はなるべくコストを抑えたいということだったのだろう。このようなパターンのデザインを「フォーマット」というが、デザイナーに一度フォーマットを作ってもらえば、その後デザイナーの活躍する場面はほぼなかった。角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫のフォーマットはデザインクレストの朝倉氏が担当しているのだが、朝倉氏によれば、デザイナーの仕事がなくなってしまって後悔したそうだ。
 ライトノベルにおいてデザイナーの比重が上がったのは小説をメインにした雑誌ドラゴンマガジンの創刊からだろう。ニュータイプのデザインを担当していたデザインクレストの朝倉氏が担当しているのだが、本文のデザインはニュータイプのように大判イラストを全面に押し出し、小説の世界観がわかるような誌面となっている。最初にカラーページがあり、見開きイラストとロゴと簡単な導入の文字があって、後ろの本編に繋げるというスタイルがここで確立されたが、この手法はのちに文庫に受け継がれる。
 ニュータイプの表紙の特徴だった白地+キャラというレイアウトは、ニュータイプの元となったザ゙・テレビジョンの表紙の流れ。ザ・テレビジョンの表紙はレモンを持った芸能人が特徴で、当時アニメ誌の表紙で白地というものは少なかったためにインパクトがあった。この表紙のパターンはドラゴンマガジンでも使われている。
 文庫の場合、帯に文字要素がかかってはいけないので、基本的に正方形でデザインしているという。帯をつけても、はずしても、見栄えがするのが良いデザインだそうだ。
 朝倉氏は角川書店系だけでなく、その分派でもあるメディアワークスの電撃系の雑誌のデザインもやっている。こうしたオタク系出版物のデザインレベルを上げた人といえるだろう。

 鎌部善彦氏といえば『ブギーポップは笑わない』である。この作品の場合、イラストに対して、特に細かい指定がされた訳ではないそうだ。緒方剛志氏が描いたキャラの立ち絵イラストがあって、編集者の人が特に注文をせず、自由にデザインしていいですと言っていたので、デザイナーの鎌部氏が小説の設定を活かし、二人の立ち絵を合成したデザインにしたという。イラストレーターの描いた絵というのは基本的に加工せず、そのまま使うことが多いが、加工をしているちょっと珍しい例。
 『ブギーポップは笑わない』の口絵もそれまでになかったようなデザインだったが、これは鎌部氏がライトノベルのお約束フォーマットを知らなかったのが幸いしたそうだ。白地にキャラとロゴのみの表紙というも、雑誌ではすでにあったが、ライトノベルの表紙としては斬新で、以後のライトノベルの表紙でこのパターンが増えたのは『ブギーポップは笑わない』の影響と考えられる。
電撃文庫&hp
 余談だが、電撃hpのバックナンバー紹介で、初期の号では表紙のイラストだけではなく、表紙デザイナーである鎌部善彦氏の名前がちゃんと出ていて興味深い。それだけ重視されているのだろうか。

 ライトノベルにおいて、フリーフォーマットが普通になったのは1999年ぐらいのようだ。電撃文庫が最初かと思ったのだけど、角川スニーカー文庫でも1999年刊行の『トリニティブラッド』の頃にはフリーフォーマットだったというので、この辺りは他の人に検証して欲しいところ。
 フォーマットでなくなってから、表紙が自由にデザインされ、タイトルも既存のフォントではなくロゴとしてデザインされるようになり、デザイナーの役割の比重が上がってくる。こうして、昔はイラストとタイトルだけで小説のイメージを主張していたのが、表紙のデザイン込みで小説のイメージを読者に伝えられるようになる。結果的に、現在では昔のようなフォーマットデザインの表紙はほとんど見かけなくなった。
 ライトノベルのイラストだけの変化を比較する場合には関係ないが、表紙として比較する場合、イラストだけではなく、このようにデザイナーの比重が大きく変わってきたことを考えてみるのも面白い。


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